はじめに
こんにちは。LINEでオープンソースの管理業務を担当しているDonghyeok Kim、Jina Kim, Seoyeon Leeです。現在、Developer RelationsチームとOpen Source Program Office TFで、LINEの開発文化がオープンソース文化により近づけるように取り組んでいます。
2021年に以下の記事でLINE Open Source Sprintについて紹介しましたが、今回のLINE Open Source Sprint 2023はどのように行われたか、その過程と結果についてご紹介します。
どんなイベントなのか?
LINE Open Source Sprintは、LINEとオープンソースのエコシステムをつなげる特別なイベントです。約1か月間のイベント期間中、参加者は集中してオープンソースプロジェクトにソースコードの貢献を行い、それまで接点のなかった同僚と交流します。このイベントで、LINEのエンジニアは共に成長できる環境を経験し、さらにオープンソースコミュニティの中で積極的に活動するための最初のきっかけを得られるのです。
LINE Open Source Sprint 2023は、以下のスケジュールで実施されました。
- プロジェクトの募集:1週間
- 解決すべきissueの準備:1週間
- 参加者の募集:1週間
- 開発&貢献の作業:4週間
- まとめ&授賞式:1日
できるだけ多くの方が参加できるように、さまざまなチャネルで参加申し込みを可能としました。参加者数はプロジェクトをリードするメンターの方が決めましたが、普段の仕事と両立できる上、全員が諦めずに最後までやり遂げられる最大の参加者数を算出しました。参加したプロジェクトの一覧と参加人数は以下のとおりです。
Total | 11 | 48 | ||
---|---|---|---|---|
プロジェクト | URL | メンター | メンバー | |
LINE主宰のオープンソースプロジェクト | Armeria | https://github.com/line/armeria | 4 | 18 |
Central Dogma | https://github.com/line/centraldogma https://github.com/line/centraldogma-go https://github.com/line/centraldogma-python https://github.com/line/centraldogma-rs |
5 | ||
Decaton | https://github.com/line/decaton | 2 | 2 | |
外部のオープンソースプロジェクト | CPython | https://github.com/python/cpython | 1 | 6 |
RustPython | https://github.com/RustPython/RustPython | 1 | 5 | |
Node.js projects | https://github.com/nodejs | 1 | 5 | |
MDN Translated-contents | https://github.com/mdn/translated-content | 1 | 3 | |
Zeppelin | https://github.com/apache/zeppelin | 1 | 4 |
今回のイベントでは、グローバル各拠点から多数のエンジニアの方々にご参加いただきました。各国からの参加者数は以下のとおりです。
韓国 | 日本 | ベトナム |
---|---|---|
34 | 13 | 12 |
前回のイベントとの違い
前回のイベントが終わり、さまざまなフィードバックをヒアリングする機会がありました。それを積極的に受け入れ、今回のイベントでは以下のように改善しました。
イベントのブランドシンボルを作成
今回のイベントでは、デザイナーの力を借りてLINE Open Source Sprint独自のシンボルを作成しました。このシンボルはイベントのPR案内や参加記念品などに広く活用されましたが、開発作業で見られる各Git作業のアイコンとGitHubのコントリビューショングラフ(contribution graph)に緑が増えていくイメージをシンボルにしたものです。
参加記念のコースターとシールも作りました。イベントに参加したことがより長く記憶に残り、誇りに思えるようにイベントグッズを作成して配布しました。
ルールの変更1:第三者による外部のオープンソースプロジェクトに参加
今回のイベントでは、LINEが運営するオープンソースプロジェクトだけでなく、第三者による外部のオープンソースにも貢献できる機会を設けてみることにしました。そのため、元々から外部のオープンソースプロジェクトの運営に参加している方々を集め、計5つのオープンソースプロジェクトのメンターを務めていただきました。このような試みによって、LINEのエンジニア文化に以下のような変化を期待しました。
- LINE以外の第三者が運営するオープンソースプロジェクトにも業務中に貢献できることを理解する
- 業務中にもオープンソースへの貢献を必要とされる場合があることを理解する
- オープンソースプロジェクトコミュニティの間で、LINEがオープンソースに積極的な開発文化を持つ会社として認識される
次回のイベントでも引き続き外部のオープンソースプロジェクトに貢献する機会を設ける予定ですので、今後ともよろしくお願いします。このイベントに興味のあるオープンソースコミュニティの方は、ぜひご連絡ください(dl_ospo@linecorp.com)
ルールの変更2:クレジット制度の導入と授賞式
前回のイベントでは、オープンソースプロジェクトごとに参加MVPを選定して所定の商品をお届けしましたが、プロジェクトをリードしたメンターの方から、MVPに選ばれなかった参加者にも参加する意味を実感できるようにしてほしい、という意見がありました。さまざまな案を検討した結果、今回のイベントではプルリクエストの登録やマージといった活動の種別ごとにクレジットを与え、それぞれの貢献状況を数値で確認できるようにルールを作りました。クレジットは以下のように配分しました。
活動 | クレジット |
---|---|
PR(pull request)を登録する | 3 |
PRをマージする | 難易度によって10, 7, 5 |
他人のPRをレビューする | 2 |
新しいissueを登録する | 1 |
プロジェクトのメンターが選定したMVP | 10 |
イベント終了後、お互いの活動現状を振り返り、クレジットを最も多く獲得した5人の方に商品をお届けしました。参加者のみなさんは、授賞式でお互い励ましの拍手を送りました。
バーチャルスペースの活用
今回のイベントでは、オンライン上のコミュニケーションに最適化されたオープン型メタバース ZEPプラットフォーム を活用しました。
オンラインで開催するイベントなので円滑なコミュニケーションを優先にし、チームとしてのつながりを感じられるスペースを作ることを目指しました。無料で提供される基本のテンプレートとオブジェクトを活用して希望するスペースにカスタマイズできますが、大きく2つに分けて、貢献作業に集中できるオフィスと交流や休憩のための癒しのスペースを設けました。
オフィスのスペースは、定期的なミーティングに活用できるように、貢献作業に集中できる個人スペースと一緒にコードを見ながら質問して解決できる集合スペースで構成しました。各プロジェクトのオフィススペースを構築し、定期的なミーティング時間に入場するとチームメンバーに会えるシステムを構築しました。このスペースでは、特にビデオ会議機能や画面共有機能により、リアルタイムで質疑応答ができることを積極的に活用しました。
作業を続けていると、疲れたり集中力が落ちたりすることもあります。その際に利用できる小さい屋根裏部屋と、しばらく休憩できる散歩のスペースを設けました。円滑なコミュニケーションのためには、何よりチームメンバー同士が親しい関係を保つ必要がありますが、ミニゲームができる場所を設けてお互い親しくなれる楽しいスペースになったと思います。
イベント開始後、参加者それぞれが自分のオフィスに入場し、集まって話し合う姿を見るにつれ、主催の私達も何かしらやり甲斐を感じたことを記憶しています。参加者の皆さんも最初は慣れない環境と操作に戸惑うこともありましたが、すぐに慣れてきて画面共有やビデオチャット機能まで自由に活用されることを見ると安心しました。ZEPで提供するチャットのテキストやさまざまなリアクションがアバターの頭の上にリアルタイムで表示されるリアクション機能は、一緒に集まるスペースに可愛らしさを加え、全体の雰囲気をさらに和やかにしてくれました。
結果の共有
約1か月間、昼夜を問わず熱心に参加していただいた参加者の方々のおかげで、今回のイベントでは以下のような成果を上げることができました。
48人の参加者が計96のPRを提出し、イベント終了の時点まで65のPRがマージされました!
4週間にかけて注いだ努力が目に見える成果となり、参加者の方はより大きな自信を感じているようでした。時間が経過するにつれてクレジットが増えていくのが目に見え、それを見守る運営スタッフも誇らしくなってしまいました。忙しい中でも積極的に参加してくださったおかげで、予想よりもはるかに素晴らしい成果を得ることができました。この場を借りて、お疲れ様でした、熱心に参加していただきありがとうございました、と改めてお礼申し上げます。
アンケート結果の共有
イベント終了後に行ったアンケートでも貴重な意見をいただくことができました。以下は、そのアンケート調査の結果になります(上位3つの回答)。
満足度 | 満足できた部分 | 残念だった部分 | |||
---|---|---|---|---|---|
非常に満足 | 76.9% | 現地の同僚と親しくなった | 53.8% | 予想より時間がかかる作業が多かった | 15.4% |
満足 | 15.4% | 業務時間に参加 | 50.0% | 言語の壁 | 11.5% |
普通 | 7.7% | グローバル同僚との交流 | 46.2% | 他の同僚と親しくなれなかった | 7.7% |
現地の同僚と親しくなれて満足できたという回答が最も高い割合を占め、グローバルの同僚と交流できたことも高い満足度を示しました。一方、他の同僚と親しくなれなかったのが残念だったという回答も比較的に高い割合を占めていることから、同僚との出会いや交流が満足度の大きな部分を占めていることが分かりました。業務時間に参加して良かったという方もかなりいましたが、予想より時間がかかる作業が多くて残念だったという意見もありました。
イベント終了後にも継続してオープンソース貢献に参加するかどうかについて聞く質問に対しても、以下のように貢献を続けるという意見が多くありました。これにより、今回のSprintイベントがオープンソース貢献の第一歩になったことが分かりました。
今後のオープンソースへの貢献意思 | |
---|---|
今回のSprintで参加したオープンソースプロジェクトに貢献を続ける | 50% |
貢献する他のオープンソースプロジェクトを探す予定 | 45% |
また、多くの参加者から次回のLINE Open Source Sprintにも参加したいという意思を示していただき、一層やりがいを感じて満足できました。
以下はLINE Open Source Sprint 2023について寄せられた感想と意見です。
- 翻訳の貢献活動によって多くのドキュメントを集中して読んでみることができ、より意義深く楽しい時間だった。イベント終了後にも、続けて貢献したい。
- PRの作業を終わらせるのが大変だったが、オープンソースを通じて成長できた良い機会だった。これからもさらに貢献活動を続けていきたい。
- LINE Open Source Sprintには2回目の参加だったが、このような場を提供していただいたことに感謝し、これからもさらに貢献活動を続けていきたい。
- 昨年に続いて2回目の参加だったが、いつも自分から貢献するよりも多くのことを学び、成長し、より多くのものを得ていると思う。毎年このような場を設けていただき感謝している。
- オープンソースプロジェクトに貢献したのは初めてだが、多くの方々のおかげでここまで貢献できたと思う。オープンソースに貢献してみる機会をいただき感謝している。
- このようないいイベントを設けていただき、スタッフのみなさんに感謝している。
- 一人で挑戦を始めるのは漠然とするオープンソース貢献ができた良い機会だった。
- 日本でもこのようなイベントを開催してほしい。
- 会社の年間のピアレビュー期間とイベント期間が重なってしまったことが残念だった。
- 事前に選定されたissueがもっと多ければよかったと思う。
イベントの最後日に参加いただいたメンターからの意見もありました。メンターの方からの意見もまとめて報告します。
- オープンソースに関する楽しいイベントを企画していただきありがたい。
- 楽しいイベントに招待していただき感謝している。今まで行ったオープンソース関連のイベントの中で最高の経験をしたと思う。
- 簡単ではないプロジェクトだったと思うが、最後まで参加していただき嬉しかった。
- 非常に意味のあるイベントを企画していただき感謝している。オープンソースの活動に時間を割くのはなかなか難しい状況だったが、このイベントのおかげで業務時間に活動することができ、有意義なものだった。メンバーのみなさんは想像以上の成果を上げた。メンバーの方々にとって、このイベントがオープンソース活動の第一歩になればと思う。1つ残念なのは、貢献プロジェクトの難易度によって獲得できるクレジットに差が出るシステムだったので、メンバーが入賞を逃したということだ。
- 社外で会った貢献者に比べると、より多くの時間を割いてイベントに参加していただいたと思う。思ったよりも多くの時間を割いてもらい、メンターとして感謝している。また、簡単ではないプロジェクトだったにもかかわらず、メンターの方々の貢献しようとする気持ちが伝わってきて良かった。
イベント運営スタッフからの感想
今回のイベントの実施で、運営スタッフは普段の業務に加えてイベント運営の仕事まで担当したので、忙しい日々を送りました。しかし、普段の業務では接することのできない、LINEのオープンソースについての多くの意見と忙しい日々も忘れさせる参加者の方々のエネルギーで楽しい1か月を過ごしました。その運営スタッフからの感想をまとめました。
Seoyeon Lee
今回のイベントでは、LINEのオープンソースだけでなく、外部のオープンソースプロジェクトにも貢献したことが最も意義深いことでした。LINEでは忙しい業務環境の中でもオープンソースにより貢献しやすくするため、業務中にオープンソースに貢献する際に何らかの事前の許可が必要なく、自由に作業できます。一方、LINEでは、誰がどのオープンソースに貢献しているかを確認しにくいところもありました。今回のイベントを通じてさまざまな分野のオープンソースのメンテナーに合うことができ、オープンソースのメンテナーになったそれぞれのきっかけについても知ることができたので、とても興味深かったです。これからも、これらのオープンソースプロジェクトとLINEがより緊密な関係を築いていけるように取り組んでいこうと思いました。
運営スタッフが3人に増えて、よりさまざまな試みができたことも、とても心強かったです。普段は、イベントの運営を専門にする業務を担当していないため、これまでのイベントでは未熟な部分も多かったと思います。しかし、今回は私の経験に他の運営スタッフの努力が加わり、より充実したイベントを作ることができました。毎回、イベントの中盤から後半にかけて業務量で疲れている方がいて、オープンソースに貢献する良い経験を作ろうという意図がバーンアウトにつながるのではないかという懸念がありました。今回は、運営スタッフの努力でイベントの中盤に参加記念品を届け、改めて気持ちを引き締めるように励ましました。
イベントを準備して運営することは簡単なことではありませんが、このように多くの人の努力の成果を目の当たりにし、実感できることが私を動かす原動力になっています。今年出会ったみなさん、お会いできて本当に嬉しかったです。来年のイベントも頑張って準備していきたいと思います!
Donghyeok Kim
主にオープンソースのコンプライアンスに関する仕事ばかりしていた私にとって、今回LINE Open Source Sprint 2023の運営スタッフとして参加したのは、新しくて特別な経験でした。アンケート調査の結果を見ると、参加者のほとんどの方に満足いただき、イベント終了後にもオープンソース貢献を続けるとのフィードバックがありました。これで、オープンソースチームが目指している、LINEのエンジニアが成長できる文化を作り、LINEがオープンソースエコシステムに貢献できる小さい足がかりができたイベントになったと思います。
私にとってイベントを運営することは慣れない仕事で、オープンソース貢献作業についてもよく分からなかったため、LINE Open Source Sprint 2023は個人的に多くのことを学んだ特別な経験でした。今回の経験をもとに、次回のLINE Open Source Sprint 2024(?!)ではよりスムーズに楽しく準備できると思い、楽しみにしています。
Jina Kim
LINEに入社して参加した初めてのオープンソースイベントだったので、忘れられない記憶になると思います。イベントを企画して準備する段階からワクワクしながら参加したのですが、イベント開始後、昼夜を問わず参加していただいた参加者の方々のおかげで、最後には誇りとやりがいを感じることができました。
何もなかったスペースが立派な集いのスペースに変化していく過程に携わっていただけでも、私にとってはとても有意義な時間でした。忙しい中にも多くの時間と労力をかけて一つの課題を完成していく姿を見て、「仕事」と「成長」への熱意を感じることができました。今回のイベントを通して、やはり一人よりは一緒のほうがより良い成果を上げられることを身をもって経験し、私自身がより多くのものを得て、やりがいを感じながらイベントを終えることができました。
おわりに
ここまでLINE Open Source Sprint 2023イベントとその感想についてお伝えしました。最後に、外部のオープンソースコミュニティの方の中でこのイベントにご興味をお持ちの方は、ぜひ dl_ospo@linecorp.com までご連絡ください。来年も充実したイベントを準備しますので、多くのご期待とご関心をお寄せください!