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​​LINEミニアプリにおけるプログラムマネジメントの裏話。5カ国10以上のチームで共通のゴールに向かう​ 

LINE株式会社およびヤフー株式会社は、2022年11月17日・18日の2日間にわたり、技術カンファレンス「Tech-Verse 2022」をオンライン(ライブストリーミング形式)にて開催しました。特別連載企画「Tech-Verse 2022 アフターインタビュー」では、発表内容をさらに深掘りし、発表で触れられなかった内容や裏話について登壇者たちにインタビューします。今回の対象セッションは「LINEミニアプリ:5カ国10以上のチームで共通のゴールに向かう」です。 

LINEミニアプリは、LINE Developersで提供するLIFF(LINE Front-end Framework)やメッセージ関連機能、LINE公式アカウントなど10程度のコンポーネント・機能を束ねたソリューションであり、日本、タイ、台湾で提供されています。各コンポーネントは5カ国にまたがる10以上のチームが企画・開発を担当しており、それぞれのチームにバックログが存在します。  

各チームが異なるプロセスやサイクルで開発をしているため、以前はLINEミニアプリ全体としてのロードマップ提示やスケジューリング、進行管理がとても難しい状況でした。セッションでは、そんなLINEミニアプリのプログラムマネジメントの方針や実施内容について語られました。今回はLINEのTechnical PM 1 Teamに所属するTechnical Program Managerの石塚剛に、発表内容の裏話を聞きました。 

情報整理と可視化からのスタート 

――石塚さんはTechnical Program Managerという役割を担っていますが、一般的なプロジェクトマネージャーと業務内容はどのように違うのでしょうか? 

LINEにおけるTechnical Program Managerは、一般的なプロジェクトマネージャーと同じような進行管理の役割に加えて、担当業務のスコープがさらに広くビジネスや企画の起案段階から関わっていきます。また、エンジニアリングの専門知識を活用して、プロダクト開発のスムーズな進行を手助けすることが異なっています。求められる役割の特性上、エンジニア出身の人が多いです。 

私自身は2018年5月に入社して、最初はLINEキャリアを担当しました。その後にLINEバイトを担当し、現在はLINEミニアプリとLINEバイトを兼任しています。 

――今回のインタビューでは「Tech-Verse 2022」のセッションをふまえ、より深掘りした内容を伺います。セッション内では、石塚さんがLINEミニアプリに参画したばかりの頃、情報が整理されておらず「カオスな状態」だったとのお話がありました。そうした状態になっていたのはどのような理由からでしょうか? 

私が参画する前の話であるため想像になってしまいますが、LINEミニアプリに関与していたメンバーに、プログラムマネジメントやタスク管理などのノウハウを持っている人が少なかったのだと思います。プロダクト開発の進め方をそれほど整理できていないまま、発生したタスクを場当たり的にこなしている状態でした。最終的にサービスや機能は出来上がるものの、あまり効率良く作業できていませんでした。 

――プログラムマネジメントにおいて、組織内のどの課題や工程から改善していくかを検討することは非常に難しいです。LINEミニアプリにおいて、石塚さんはどのような方法で課題の可視化と優先順位付けを行いましたか? 

最初にLINEミニアプリに参画したときは、各作業の課題や進行状況の詳細がわからなかったため、優先順位付けを行おうにも検討材料がない状態でした。もちろん、JIRAなどのタスク管理ツールは導入されていましたが運用がうまくできておらず、各タスクが適切に整理されていなかったり、事業方針や作業内容を各々の担当者が個別で管理しており第三者が俯瞰できなかったりしました。そこで、まずは情報整理と可視化から開始しましたね。定例会議で各者の話を聞いて情報を整理したり、わからないことはそれぞれの担当者にヒアリングしたりして、地道に情報収集を重ねていきました。 

タスク管理・工数見積もり・コミュニケーションのTips  

――セッション内では、JIRAを用いて階層構造でタスクを管理する方法が紹介されていました。プロダクト開発における定石的な手法ですが、やはりこうした階層化は効果的だと思われますか?

そうですね。あまり進行がうまくいっていないプロダクト開発の現場では、タスク管理ツールにおけるチケットの作り方やその階層化が今ひとつであるケースが多いです。ある程度時間のかかる大きな機能の開発と短時間でできるメンテ作業など、性質の異なる業務が横並びに管理されていることもある。要するにToDoリストのような状態になっているんですね。それでは各メンバーがどれくらい大変なタスクを持っているのかが把握しにくくなりますし、全体的な進行状況の管理もしにくくなります。 

現在のLINEミニアプリでは、ある程度大きい単位の施策はエピックとして起票し、それに付随して発生する作業をタスクとして起票することが多く、階層構造で管理するようになっています。それからセッション内でも解説しましたが、開発を進めていく過程で発生する細かな作業は、開発チームにチケットの発行や管理を任せています。Technical Program Managerは、それらのチケットの紐付けのみを行う運用になっていますね。

――別の切り口として、工数見積もりで工夫されていることはありますか? 

基本的にLINEミニアプリでは、開発チームやQAチームに工数見積もりをお願いして、出てきた情報を基にスケジュールを組んでいます。これまでの経験上、人にもよるのですが、施策の内容やフェイズなどいろいろな要因で見積もり精度が異なってくると思います。そのあたりを踏まえて、工数が適切かどうかの見直しをかけると良いです。 

たとえば、担当者が「2週間でできます」と言っている場合でも、すべての作業が順調に進む前提で2週間という見積もりを出す場合と、本当は1週間くらいでできるけれど工数のバッファを積んで2週間という見積もりを出す場合があります。出された見積もりをそのまま取り入れるのではなく、作業を依頼する側と見積もりを出す側とで丁寧に認識を合わせておくと、その後の工程も比較的スムーズに進みます。 

――この記事を読む方の中には、LINEミニアプリの事例のように複数の国やチームから組成された開発組織をマネジメントする人もいらっしゃると思います。そうした方々に向けて、石塚さんご自身の経験をふまえて伝えたいことはありますか? 

Tips的なことを話すと、こうした多国籍な開発組織ではミーティングに通訳が入ることが多いですが、資料などが何もない状態で話そうとすると、たとえ通訳がいてもうまく情報が伝わりません。ですので、ミーティングのアジェンダを事前に用意して必要な情報を共有しておくと、通訳もしやすいですし、参加者同士の誤解が生まれにくいです。それから、通訳を介した会話の場合は想像以上に時間がかかることも意識してミーティングの進行をするほうがいいです。 

それからLINEミニアプリの場合は、LINEミニアプリ専任の開発組織があるわけではなく、各プロダクトやコンポーネントを担当するチームに作業を依頼する形になっています。だからこそ、それぞれのチームのやり方を尊重しつつ、でもお願いすべきことはお願いするというバランスを大事にしています。同じような体制の開発組織をマネジメントする方には、それを重視してほしいですね。

LINEの環境ならば、最適な方法を自分で考えて実践できる 

――他企業ではなく、LINEでプログラムマネジメントに携わるからこそ経験できたことはありますか? 

私はもともと前職で受託開発の会社におり、事業会社はLINEが初めてです。両方の環境を比較してみると、仕事との向き合い方がかなり違うと感じますね。受託開発の場合、プロジェクトマネジメントにおける裁量がそれほど大きくありません。 

決められた予算と納期を守り一定以上の品質でシステムを開発することが、プロジェクトマネジメントを担う人間の基本的な役割です。プロダクトの内容やプロジェクトの方針そのものに問題があっても、変えられないことが多いです。 

ですがLINEの場合は、プロダクトやプログラムをより良くするために最適な方法を自分で考えて実践できるので、非常にやりがいがあります。この環境で働いたことで、「そのシステムや機能が本当にユーザーのためになるか」を強く意識するようになりました。 

――LINEミニアプリの開発に携わる面白さはどのような点にありますか? 

これまで経験してきたLINEキャリアやLINEバイトといったプロダクトの開発では、基本的に関与するメンバー全員がプロダクトの専任であったため、「ひとつのチーム」という感覚が強かったです。一方、LINEミニアプリを構成する人々は専任ではなく、かつ複数の国やチームのメンバーから組成された組織です。さまざまな考え方や属性の人々が集まってものを作っており、「多様な人々と関わる面白さ」があります。 

――ではインタビューのまとめとして、石塚さん自身の今後の目標を教えてください。 

現在担当しているLINEミニアプリはプラットフォームとして成長過程なので、今後はより多くの人々に使われるようになってほしいです。私はまだLINEミニアプリに参画して1年経っていないくらいなので、まだまだキャッチアップしなければならない情報もたくさんあります。キャッチアップを続けつつ、良いプロダクトを作っていきたいです。  

――プログラムマネジメントに関するTipsや裏話がとても参考になりました。今回はありがとうございました。