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Developer of the Month 2018.12 磯本悟様インタビュー

Clova Extensions Kit&Clovaスキルストアの公開に合わせてスタートした「Developer of the Month」。毎月一度LINEのAPIを使いこなして素晴らしいサービスをリリースしていただいた開発者の皆様の中から一組を新宿ミライナタワーオフィスにご招待し、インタビューと副賞の贈呈を行います。

第5回「Developer of the Month」は、行列ができる店舗で自分の番が来たら教えてくれるLINE Bot「順番待ち」を開発した磯本悟様です。「順番待ち」はLINE BOOT AWARDS 2018では惜しくも受賞はならなかったものの、応募1125件中12組のファイナリストに選出。さらに「順番待ち」をトラックの呼び出しに応用させた「TruckCALL™」も開発され、Clovaとの連携も考えているといいます。インタビューでは、LINEのAPIを利用したサービスの創出手法とマーケティングについてもお聞きします。

磯本悟氏

プロフィール

磯本悟(いそもとさとる)氏。2011年にアプリ開発会社である株式会社ブレイブテクノロジーを設立し、2017年からは飲食店の行列を解消する「順番待ち」を主力製品として営業を行う。2018年には物流業界のトラック待機問題を解消するために「TruckCALL™」を開発し、株式会社BRAVELOGISを設立。両社の代表取締役を務める。

LINEアプリで順番待ち。自分の順番が近づくとLINEでお知らせしてくれるので好きな場所で待てる。

ーーまずはBOOT AWARDS 2018ファイナル進出おめでとうございます!最初にお仕事について教えてください。

磯本悟氏(以下、磯本氏): ブレイブテクノロジーは8年目の会社です。立ち上げ当初はスマートフォンのアプリを受託開発していましたが、2016年に今のサービス(「順番待ち」)をつくってからは受託開発を縮小し、サービス展開に注力しています。

ーーどのようなサービスか教えてください。

磯本氏: デモがありますのでこちらで説明します。店舗にiPadを設置し、来店されたお客様が順番待ちの登録をします。人数、喫煙/禁煙、などを入力すると二次元コードが表示されます。二次元コードをお客様がスマホで読み取ると、LINEに情報が紐付き、自分の番が近づくとLINEに通知がきます。LINEをされていない方はこれまでと同様にプリンタで出力した整理券で順番を待ちます。

ーーお店側のオペレーションはどのようになっていますか?

磯本氏: 簡単ですよ。WEB上の管理画面で該当ユーザーを選択したら呼び出しができるようになっています。

呼び出しボタンを押すとお客さんのLINEに通知がいきますが、もしお客さんが来なかったら、来店の意思確認の連絡もできます。既読機能がないので、トーク画面に「はい/いいえ」を出してユーザーに選択してもらうことにしています。

ーーもしお客様が呼び出しに応じず、来店意思の確認メッセージにも反応がなかったら、どうなるのですか?

磯本氏: 店舗側のWEB画面では、呼び出しを押したらタイマーが表示されます。ですので、たとえば10分たったら保留にしたりすることができます。

ーー店舗側の呼び出し画面はブラウザだけで利用可能ですか?

磯本氏: はい。ブラウザがあればOKです。お客様をお席までお連れして、案内が完了すると、LINEにサンキューメールが送られて終了です。

ユーザーの待ち時間解消だけでなく、LINEを通じたデータの活用も大きなメリット

ーーコメダ珈琲さんが導入されているということですが、導入してからの反応はいかがですか?

磯本氏: コメダ珈琲さんは各地の店舗がどれくらい混んでいるかを把握するのが難しいという課題を抱えておられました。それが「順番待ち」を入れたことで、例えば名古屋の本部にいても沖縄の混み具合が一目でわかるようになったとおっしゃっています。

情報をデータ化してグラフ化する仕組みもあるので、混み具合がわかれば、スタッフ数が少ないからお客さんの待ち時間ができてしまったのか、そもそも席数が少ないから増やした方がいいのかなどの分析と改善ができます。

それに飲食店は席数と回転数以上には稼げないので、順番待ちをするための待合スペースは無駄になるんです。待合室をつくるくらいなら潰してテーブルにした方がいいんですよね。「順番待ち」を導入することで待合スペースが不要になるので、利益率は上がります。

その好例が、初めて沖縄にオープンしたコメダ珈琲です。オープニング時に、50組120人の方が待つことになったのですが、お店の用意したスペースで待っていた方はほとんどいませんでした。「順番待ち」で登録し、通知が来るまで多くの方が自宅や車の中で待たれていたんですね。

ーー行列ができると近所に迷惑がかかることもありますし、店舗側にも大きなメリットを提供できているようですね。コメダ珈琲さんはチェーン店ですが、個店さんが一番喜ばれることは何でしょうか?

磯本氏: 紙に名前を書いて待つだけですと、紙を見ただけでで帰られるお客様も多いんですよね。ある個店の焼肉店さんは、「順番待ち」を導入してからキャンセルされるお客様が減って売り上げが月に50万円も上がったとおっしゃっていました。

それから店員さんにとっては、紙に書いてある名前が読めなかったり、読み間違えて怒られたりするというストレスがあるのですが、それがなくなるのが良いみたいです。同じ名前の方が2人いらして、あとから自分の方が先だったのに、とクレームが起きるとかそういうトラブルを避けることができます。

ーーそれは中の方でないとわからないストレスですね。ユーザーさんの反応は?

磯本氏: ユーザーさんからは時間が有効に使えるようになったと言われます。

ーーそうですよね。私もそうなのですが、日本人の習性として行列ができているとついつい自分も並んでしまう人が多いこともあり、多くのユーザーの課題を解決できる、一度使うと手放せないサービスだと思います。

今年はコメダ珈琲さんだけで100店舗導入。開発したサービスを2人だけの営業体制で導入してもらう為に大切なこととは

ーースタートから順調に伸びている印象なのですが、営業はどのようにされているんですか?

磯本氏: いえいえ、最初は大変でしたよ。営業では、今見てもらったようなデモを実際にやっています。LINEがキャッチーなので食いつきはいいのですが、すぐには理解してもらえません。ただ30分も経つと「これは便利」と笑顔になってくれる方ばかりで嬉しいですよ。

営業は今私ともう1人が担当していますが、彼も「こんなに笑顔になってもらえる製品は初めて見た」と言ってくれます。

ーー嬉しいですね。それでも最初は大変だったということですね。

磯本氏: ええ、最初は大変でした。食いつきはいいのですが、飲食店の方はITを日頃使わない方も多くて「本当にちゃんと使えるの?」という抵抗感があるんです。私の方も飲食店について知らないことだらけでして、お店の方と一緒に開発を進めてきた感じです。

ーー最初の接触はどのようにされるのですか?

磯本氏: 基本的にプッシュ営業はしないで問い合わせ対応だけでやっています。今は新規問い合わせが毎日あります。

ーー問い合わせはLP(ランディングページ)経由が多いのでしょうか?

磯本氏: ほとんどそうです。「順番待ち」や「順番待ち 解消」の検索でトップに来るのも大きいと思います。

ーーサービス名を考える時、どう付ければ上位に来やすいかよく考える必要がありますね。

磯本氏: 問い合わせは本当に最初からありまして、2017年3月8日にサービスリリースのプレスリリースを出した翌日には問い合わせがあったんです。それが歌舞伎町にあるコメダ珈琲店 新宿靖国通り店のオーナーさんです。8日にリリースは出したのですが、まだ製品は仕上がってなくて、ちょっと待ってもらって(笑)その方に「禁煙・喫煙の選択肢はないんですか」と言われて、そこではじめて気付いて入れました。

そんな調子で一緒に改善をして、お店に導入できたのが6月です。その3日後にはコメダ珈琲本社から電話がかかってきて、詳しく話を聞きたいと言われて、名古屋に飛びました。何度も提案して直営店の店舗は全部入れましょうという話になったのですが、そのあとは時間がかかりました。約800店舗あるFC店にも導入を勧めていいものなのかを判断してもらうのに一年くらいかかりました。

ーー本部は慎重にならざるをえないですよね。今はどれくらいの店舗に導入されているのですか?

磯本氏: 現在はまだ全体で100店舗くらいです。

――かなりの数ですね。他にも競合があったと思うのですが、選ばれた理由は何だと思われますか?

磯本氏: 「順番待ち」がいいサービスだということと我々のフットワークの軽さです。「~~できますか?」と言われたら、翌日には対応します。その結果できることが増えてきて、今では飲食店でも病院でも使えるサービスになりました。

ーーネイティブアプリと違い、更新に時間がかからないのもLINEの良さだと思います。本当にお客さんと二人三脚で進めてこられたんですね。

磯本氏: そうですね、最初は本当にわからないことばかりで大変でした。お店の方も配線がどうなっているかわからないとか。何度お客さんのお店で配線をかきわけるために潜ったことか(笑)。お客さんと話しながら、マニュアルや説明の仕方も合わせて改善してきましたね。

ーー導入した後の対応はどうされているんですか?

磯本氏: 使い方に関する問い合わせはないですね。Wi-Fiがつながらないとか、それは我々かなぁと思う質問はあります(笑)

ーー継続してのサポートは必要ないんですね。

磯本氏: サービス自体がわかりやすいものなので、ないですね。最近は、コメダ珈琲に行かれたお医者さんから自分の病院に導入したいと連絡がありました。

ーー素晴らしいサービスですので、そうやってユーザーとして使う中で自社にも導入したいと思われる方も多そうですね。他にはどのような営業活動をされていますか?

磯本氏: あとは、調理器具とか調味料とかが並んでいるような飲食店向けの展示会がありまして、そちらへ出展したりもしています。

「ほとんどの人が知っている、使っているLINE」これが大きい

ーー開発しようと思われたきっかけを教えてください。

磯本氏: もともとブレイブテクノロジーは、ネイティブアプリを受託開発していたのですが、だんだんとアプリをせっかく開発してもインストールされなくなってきました。

そんな中2017年1月に飲食店のオーナーさんから、行列解消のためにアプリで呼び出しができないかと相談されたのですが、「お金ばっかりかかって、みんな使わないですよ」と言って、LINEだけで呼び出しできるという構想をメモ1枚に書いて。それが1月で3月には完成していましたね。

ーーそうだったんですか。アプリは使ってもらいにくくなってきましたよね。

磯本氏: そうなんです。最初はLINEだけつくったのですが、LINEをされない方もいるので、紙でも発券ができるようにプリンター対応のアプリをつくりました。今となっては、その判断が良かったです。お客さんに説明するときもプリンターの説明から入るとこのサービスが何の代わりとなるものであるかが伝わりやすいですね。

ーーLINEの強みは何だと思いますか?

磯本氏: ほとんどの人が知っていることです。普段使っているものなので、LINEで呼び出しができると言った時にイメージが浮かびやすい。それが強みですね。

ーーネイティブアプリはちょっと難しいかもしれませんね。

磯本氏: ネイティブアプリだとログインが必要なので個人情報をとられるのではないかと警戒されますね。でも、LINEで友達になるのは日常でやっていることなので抵抗がないんですよね。

ーー最近はアプリのプッシュ通知をオフにされます。そうするとサービス運営者起点で情報を送ることが出来ず、もう全然見てもらえなくなるんですよね。多数のアプリがインストールされていると埋もれてしますますし。

磯本氏: ええ。LINEだと通知をオフにされないのも強みです。

ーー反対にLINEの難しいところはありますか?

磯本氏: LINE Botのリッチメニューとキーボードの切り替えがまだ浸透していないことですね。

ーーそれはわかりにくいところですよね。磯本さんはリッチメニューをリリース時から使ってくださってますよね。

磯本氏: ええ、最初は毎回ユーザーにテキストを打ってもらわないといけないのかと思っていましたが、エンジニアにリッチメニューを教えてもらいました。テキストを打たせるハードルが高いんですよね。

ーーどうしても「チャットボット」という言葉を聞くとテキストベースのコミュニケーションの実装が必須なイメージを持たれる開発者の方は多いですが、リッチメニューやリッチメッセージをうまく利用すればタップのみで操作できるサービスも簡単に開発が可能です。他に開発する中で苦労された点はありましたか?

磯本氏: LINE Messaging APIの使い方がわかるまではエンジニアは苦労したみたいですが、今はもう簡単にやってます。デザインをしないでいいのが楽ですね。

ーーそれも開発がスピーディーにできる理由の一つですね。使われているAPIを教えてください。

磯本氏: メッセージング、リッチメニュー、ロケーションメッセージ等一通り使っています。

横浜マリノスの試合でも実証実験中。多数のユーザーの課題を解決

ーー「順番待ち」は店舗だけではなく、イベントにも使われているんですよね。

磯本氏: 横浜マリノスさんと実証実験としてやっています。これは「順番待ち」を使った抽選システムですが。

ーーどのように使われたのですか?

磯本氏: 横浜マリノスの試合は、前日から場所取りをして並ぶような熱烈なファンがいらして。そういう文化があるんですよね。

ーー指定席券でも並ばれるんですか?

磯本氏: そうなんです。指定席でも早く入場したいというファン心理があるようです。ただそれだと警備の問題もありますし、地方の方だと試合前日に場所取りをして、仕事のために地元に戻って、試合当日にもう一度くるといったような無理をされる方もいるので、運営としては何とかしたい、と。それで並ばなくてもいいように、前日にLINE上でチケットを発券できるようにしました。

1度目の発券は13時から、と時間を指定したらユーザーが集中してしまったので、2度目は早いもの勝ちではなく番号がランダムになるような抽選方式に変更したら、混乱もなくアクセス集中も解消されました。

ーーそれはLINEだけでされたのですか?

磯本氏: ほとんどの方がLINEです。紙での発券は1%ほどでした。基本的にLINEをやっていない方には、LINEをやってくださいという姿勢で進めました (笑)。

ーー反応はいかがでしたか?

磯本氏: 使い方に関する問い合わせが1つもなかったんです。Jリーグには公式アプリがあるのですが、それだとログインができないとか使い方についての問い合わせがあるそうなんです。

そういうこともあって、LNEを採用した「順番待ち」はかなり高評価をいただいていますね。

ーーイベントに導入されたらすごくいいですよね。楽しみにしています。

40年変わらない物流業界のトラック待機問題解消にLINEを使って挑戦

ーー「順番待ち」の物流業界向けサービスも運用されているそうですね。詳しく聞かせてください。

磯本氏: 「TruckCALL™」というサービスで、「順番待ち」をトラック向けにしたものです。

ーーその構想は最初からスコープに入っていたわけじゃないですよね?

磯本氏: そうです。これも偶然なのですが、さっきお話した飲食店向けの展示会でたまたま同じ建物で物流ロジスティクス展をやっていて、物流関係の方が我々のところにいらしたんです。

ずーっと見てらっしゃるので声をかけたら、「トラックにも、これ使えない?」と。それがきっかけで、やってみましょうかと作り始めたんです。

ーートラックの待機時間は社会問題になっていますよね。

磯本氏: ええ、トラックの運転手が荷待ち(荷物の積み下ろしや物流施設の都合で待たされること)のためにトラックの中で何時間も待機する。その時間は何なのか。待機時間なら、給料が発生するし、休憩時間なら発生しない。誰の責任でどれだけ待っているか記録しなさいと国から言われています。でも、今の物流業界は記録をとるとしたら手書きしかないんですよ。

国から言われているからやらなければいけないけれど、大手に頼むと予算1億円とか言われる。でも、物流会社にしたら、それをやったところで利益がでるわけではないので1億円もかけていいのか悩むんですよね。そこに初期費用も少なくランニングコストも数万円の「TruckCALL™」ができた、と。

ーーそれはインパクトが大きいですね。

磯本氏: トラックにGPSなど何かをつける必要がなくて、ドライバーさんが使い慣れているLINEで済むのも喜ばれます。

ーー「順番待ち」と使い方はどこが違いますか?

磯本氏: 基本的には同じですが、入力する情報や呼び出し方が違います。人数の代わりに車番を入れて、「冷蔵車」など車の種類、会社名、電話番号を入れて、発券をします。

ーー電話番号も入れるのですね。

磯本氏: 会社支給の携帯がガラケーだという方も結構いらっしゃるんです。それで電話番号も聞いています。

ーー普通、物流会社は1日にどれくらいトラックが来るものなのですか?

磯本氏: 1日60~70台だと標準的な会社規模で、大手だと1日200~300台きます。

ーーそれを全部記録しようと思ったら大変ですよね。豊洲市場や関空のJAL CARGOさんにも導入されているんですね。

磯本氏: はい。OEM提供もしており、機能は同じですが、たとえばJAL CARGOさんですと引き取り貨物情報の事前入手にこだわりを持たれているので、それなら違うものでやってもらおうということで作っています。

ーー短期間に多くの企業に導入されていますが、導入された企業の反応はいかがですか?

磯本氏: 横浜マリノスさんと同じでドライバーさんから使い方に関する問い合わせがないと言われます。みんながわかってくれるというのは強みですね。

ーーなるほど。ところでClovaとの連携も考えていらっしゃるとか。

磯本氏: 運転中にスマホを触ってはいけないので、ドライバーさんのインターフェイスを考えると次は音声かなと思っています。

ーーClovaを車載するということですか?

磯本氏: わたしはClovaをトラックに積んで欲しいなと思いますね。

ーーもっとたくさんの方にClovaを使って頂けるようがんばります。それでは最後に読者に伝えたいたいことなどがあればお願いします。

磯本氏: 「順番待ち」には「待たせるストレスを解消したい」という思いで取り組んでいます。最近は「待たずに待てる」という言葉を使っているのですが、待っている間に他のことをして有効活用してもらえればと思っています。

これからは「TruckCALL™」にも力をいれていきたいです。2020年のオリンピックまで物流は増えると思いますし、トラックの待機問題は切実な問題なんですよね。

実は私の父はトラックの運転をしていまして、「昔はどうしたの?」と聞いてみたんです。そうしたら「トラックの中で待っていた」と。40年前と何も変わっていないんですよ。そういうところを少しでもよくしたいと思っています。

ーーみんなが知っているLINE上でサービスを運営することで多くの、そして様々な年齢層のユーザーの課題を解決できる可能性があり、やりがいがあるというお声もよく頂きます。今後も磯本さんを始めとする開発者の皆様のサポートをするために何が出来るか企画、実行していきますので、引き続き連携を強めていければ幸いです。今日はありがとうございました。

制作:SmartHacks