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Developer of the Month 2018.09 金谷拓哉様インタビュー

Clova Extensions Kit&Clovaスキルストアの公開に合わせてスタートした「Developer of the Month」。毎月一度LINEのAPIを使いこなして素晴らしいサービスをリリースしていただいた開発者の皆様の中から一組を新宿ミライナタワーオフィスにご招待し、インタビューと副賞の贈呈を行います。

第2回「Developer of the Month」は、、Clovaスキル「MY BODY~かんたん体重記録」を開発した金谷拓哉様です。本スキルはClova搭載デバイスに体重を伝えるとそれが日々データベースに保存されていき、トークルーム上のLIFFで体重遷移のグラフを直感的に見ることができるというものです。まだ登場から間もないClova Extensions KitLIFF(LINE Front-end Framework)を見事に連携し、LINEだからこそ出来るユーザーエクスペリエンス、Clovaの「日常に溶け込んで人々のサポートをする」という体験を創出した点が評価されました。

金谷拓哉氏

プロフィール

金谷拓哉(かなたにたくや)氏。株式会社神戸デジタル・ラボのエンジニア。同社新技術活用推進班のリーダーとして市場で活用事例の少ない技術の活用や活用ノウハウの社内外への発信に取り組んでいる。VUIに関するコミュニティVUI Kobeを2018年6月から立ち上げ代表を務める。

VUIに興味を持つきっかけはスマートグラス

ーー普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

金谷拓哉氏(以下、金谷氏): 神戸デジタル・ラボでエンジニアをしています。神戸デジタル・ラボはSIerの会社として、ECサイト、WEBやスマートフォンのアプリケーション、業務システムの開発をしています。160名規模の会社ですが、ホワイトハッカーが在籍するセキュリティ専門チームがあったり、大学と共同でデータ分析技術を共同開発したりしているところが特徴の会社です。

私は新技術活用推進班というチームに所属しています。R&Dのような、新技術の開発ではなく、重視しているのは「活用」です。SIerとして今ある新しい技術を使ってお客さんの課題を解決するためのチームです。

ミッションは2つあり、一つは新技術をキャッチアップしてお客さんと一緒に使ってみること。もう1つが、新技術を使って得たノウハウ、使いどころや引っかかった点を社内外に向けて発信することです。社内に対しては、メンバーも新技術を使えるようにすることが目的、社外に対しては技術力のPRやブランディングへの貢献が目的になります。

ーーなるほど。新技術活用推進派のミッションはClovaスキルの開発にもつながりそうですね。

金谷氏: 私自身は、2年前から新技術活用推進班にいます。それ以前はスマートグラス向けのアプリ開発もしていました。スマートグラスが流行った時期です。スマートグラスはわかりやすく言うとスマートフォンがメガネになったようなもので、この時にVUIに興味を持つきっかけがありました。

というのも、スマートグラスはメガネ型なのでハンズフリーが売りなんです。それなのに操作をする時は、リモコンを使うか、メガネを直接触らないといけない。日本語の音声で操作できるといいなと思っていたのですが、開発者個人で音声操作できるアプリを開発するには敷居が高かったんですよね。

ですから、音声でデバイスを操作するClovaが登場して、しかも開発環境も整っているとわかった時は嬉しかったですね。スマートグラスの時にはできなかったことを今やりたいというのが開発のモチベーションになっています。

ーーVUIについてはかなり前から意識されていたんですね。スマートスピーカーのスキル開発は、仕事の一環として取り掛かったのでしょうか?

金谷氏: いえ、最初は個人の活動として始めました。WAVEの先行予約版を購入し土日を使ってスキルを開発して、関西の勉強会で発信していました。そのうちに上司から、社内の展示会でも使ってみたらという話しをいただいて、そこからは業務に使う機会も得ましたが、基本的には個人で開発しています。

ーー社内の展示会ではどのようなことをされたのですか?

金谷氏: スマートスピーカーを使って、展示会で会社説明を喋らせたり、就活生向けの合同説明会で就活生の質問に答えさせたりしました。

ーースキル開発もされていたのですか?

金谷氏: 公開していないものも多いのですが、いろいろ作ってきました。

スキルを日常に溶け込ませるために「体重記録」に目をつける

ーー今回受賞した「MY BODY~かんたん体重記録~」は、どのようなきっかけで作ろうと思われたのですか?

金谷氏: ハンズフリーで話しかけて操作できるのがVUIの利点だと思うので、そこを生かしたいというのが1つありました。

また、現状ではユーザーがスキル名を呼び出して起動しないといけないので、使ってもらうためには何かしら思い出してもらったり、普段の生活の中で自然と使ってもらえるようなものにしなければというのもあって、体重記録にしようと考えました。

ーー体重記録というのは、すぐに思いついんたんですか?

金谷氏: それはすぐに決まりました。多少、女性受けを狙ったのもあります。

ーーそれはClovaだからですか?

金谷氏: Clovaは見た目が可愛いので。

ーーそうですね(笑)

LIFFを使うとテキストや画像ではなく視覚的かつインタラクティブに見せることができる

ーー「MY BODY~かんたん体重記録~」では、LIFFで体重のグラフが見えるようになっています。

金谷氏: はい。本スキルではClovaに体重を言って登録ができるのと、「前回の体重を教えて」というと確認ができるようになっています。気軽に体重を記録できることでモチベーションが維持できるようにしたかったのですが、さらに体重の遷移が見えたらモチベーションが高まるかなと思ってグラフを作りました。画像でグラフを見せることもできますが、あえてLIFFにしたのは、LIFFを使ってみたかったからというのが大きいのですが(笑)

ーーグラフが溜まってたとえば1年分のグラフを見せようとする場合、テキストでは見にくくて誰も使ってくれないでしょうし、画像だと点が細かくなりすぎて難しいですよね。LIFFだとコンテンツをHTMLやJavaScriptを使って通常のWebアプリケーションのように作成でき、ページングや拡大も簡単に実装できます。

金谷氏: そうですね。LIFFでグラフの点をタップすると、その時の体重がわかったりするのは便利ですよね。

ーー画像のように静的なものではなく、インタラクティブなのもLIFFのいいところだと思います。先ほどLIFFを使ってみたかったとおっしゃっていましたが、最初からLIFFを組み込んだスキルを作ろうと思って設計されたのですか?

金谷氏: 最初からですね。今年(2018年)の8月に大阪でLINE Botの勉強会に参加しました。それでBotについて調べていたら、LIFFというのが最近実装されたと知って使ってみたいと考えていました。

ーー発想の順番としては、BotやLIFFを使ってみたいというのが先なのですね。

スキルとBotのシームレスな連携がClovaの強み

ーーLIFFの話しをお伺いしてきましたが、そもそもBotを使ってみたいと思われたのはなぜですか?

金谷氏: やはりLINEとの連携が容易というのが、Clovaのスキルを開発するメリットだと感じていました。

ーーどのようなところがメリットでしょうか?

金谷氏: スマートスピーカーには画面がついていませんが、LINEと連携することで容易にGUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)も使うことができます。これをLINEを使わずにやろうとすると、また新しく「MY BODY」用のアプリをつくって、それをユーザーにインストールしてもらわないといけない。ステップが煩雑になります。でも、LINEは大体の人がインストールしているので友だち登録さえしてもらえばいい。それは開発者目線ではかなり楽ですね。

ーーLIFFの話に戻りますが、Botで友だちになっていれば、LIFFを開くときもわざわざログインしなくていい。WEBで別にブラウザを立ち上げるなら個人の特定のためにログインが必要ですが、LINE内で開いたLIFFは既に個人が特定されているので。そういう点も気軽ですよね。

また、ClovaスキルとLINEのBotはサービスとしてはそれぞれ登録する必要がありますが、プロバイダーが同じだと同じユーザーであればリクエストに付与されるユーザーIDも同じになります。メールアドレスを取得して紐づけたりという手間が不要で、シームレスに連携ができることになります。

金谷さんは、もともとWEBの知識はお持ちだったのですか?

金谷氏: はい。

ーーそれでしたら、その知識もLIFFに活かせますね。

金谷氏: そうですね。ClovaのスキルとBotを合わせて1日かからず実装出来ました。

ーーアイディアがあればClovaスキル側の実装はそんなに難しくないですよね。音声合成や音声認識、自然言語理解のあたりはLINE側で用意されているので、ユーザーの要求に対してどんな答えを返すかというコアな部分を実装すればリリース可能になります。

金谷氏: 企画とかアイディアの部分と、ビジネスロジックを実装する部分だけに集中できるのは嬉しいです。

ーーBotも一緒ですよね。Botの基本的な機能であるMessaging APIに関してはスキルと同じ流れで開発できますし。それに加えてWEBの知識があれば、LIFFもできます。

金谷氏: 選択肢から選択させるところだけをLIFFで作ってあげて選ばせるとか、今のMessaging APIにはない操作方法を実現したい時に手軽にWebの技術を活用してLIFFで実現できるのはいいですよね。

ーーたとえばBotとhtmlのフォームは相性が悪いので、そういうのはLIFFでやるといいですよね。「MY BODY~かんたん体重記録~」のグラフなんかは、最もいい例だと思います。

VUI = スマートスピーカーではない

ーー金谷さんが主催されている「VUI Kobe」について教えてください。

金谷氏: 関東だと勉強会が頻繁に開催されていますが、関西ではVUIの勉強会はほとんどありませんでした。それで自分で立ち上げたというのがきっかけです。各社のスマートスピーカーに特化したものはあったのですが、もう1つ上のレイヤーであるVUIとして捉えた勉強会がなかった。そこで賛同するような仲間が欲しかったのもあります。

ーーVUIというレイヤーで捉えたかったというのは、どういうことでしょうか?

VUIやAIアシスタントが最近注目されていますが、あんまり知らない人には、VUIとかAIアシスタントってスマートスピーカーのことでしょと思われています。でも、そうではなく、AIアシスタントはスマートフォンやスマートウォッチ、イヤホンにも搭載され始めています。将来的にはスマートグラスにもAIアシスタントが搭載されるかもしれない。VUIってスマートスピーカーのものだけではないというところにモチベーションを感じる仲間が欲しかったんです。

ーーなるほど。

金谷氏: 今後ウェアラブルと連携したVUIも作ってみたいと思っています。今、Clovaが搭載されているソニーのイヤホンXperia Ear Duoを持っているのですが、スーパーに行った時に買い物リストが耳元で確認できれば、便利だと思いました。簡単なスキルですが、買い物カゴで片手がふさがった状態で、役に立ちそうだと実感しました。

ーーそれはいいですね。イヤホンは、よく使われていますか?

金谷氏: なるべく意識をして使うようにしています。

今後のVUI活躍のキーワードは「アクセシビリティ」「製造現場」「公共の場所」

ーー今後の展望を教えてください。

金谷氏: どうしてもSIerで働いているのもあって、コンシューマー向けよりも、ビジネス用途でのアプリとかスキルをを作りたいですし、そういう課題が溢れているのでビジネス用途で作りたいですね。

ーー最初におっしゃっていた新卒向けの説明会で使えるスキルなどはビジネス寄りですよね。

金谷氏: そうですね。あとは、よく聞くアイディアとしては音声をとれるなら議事録をとってくれとか、会議室に置いて予約状況をわかるようにしてくれとか、そういう要望は結構ありますね。

自分が挑戦したいことは3つです。

1つは アクセシビリティ です。8月にあるハッカソンに参加したのですが、そのハッカソンでは各班に1人ずつ視覚障がい者の方が参加していました。その方が教えてくれたのが視覚障がい者にとってバスの乗り降りはすごく困る、ということです。バス停にはいろんな路線がくるじゃないですか。そうすると自分が乗りたいバスが今来たのか次に来るのかがわからないし、乗れたとしても降車ボタンがどこにあるかわからない。今は手探りで探しているらしいんですけど。

そのハッカソンではスマホに搭載されたAIアシスタントを使って、スマホに「降車ボタンを押して」と話しかけると、降車ボタンが押されるプロトタイプをつくりました。

視覚障がい者の方も、スマートスピーカーやVUIに期待をしていると仰っれていました。年齢や身体障害の有無に関係なく、必要とする情報に簡単にたどり着けるような活用を今後やっていきたいと思っています。

2つ目は、IoTと組み合わせたVUIの開発 です。IoTは、センサー、クラウド、WEBアプリの3つが関わります。たとえば、窓にセンサーがついていて、窓が開いているか閉まっているかをセンシングします。そのデータをクラウド上に収集して蓄積しておき、最後、それを見るためにスマホやWEBのアプリがあります。構成要素として3つあるんですけど、当社はこのクラウドとアプリの部分の開発をしています。それもあって、IoTと組み合わせたVUIを作りたいです。

簡単に言えば、Clovaに「行ってきます」と言えば家の窓の状態を確認して「2階の窓開いてるよ」って教えてくれるようなVUIですね。それができたら便利じゃないですか。

ーーすごい便利ですね。

金谷氏: LINEさんにもIoT事業を充実させて欲しいです。

ーーそれで言うと最近LINE Thingsというプラットフォーム構想が発表されました。これはBluetoothを積んでいるデバイスと双方向のやりとりができるものです。これまでIoT機器の操作には個別にハブとなるアプリケーション等が必要でしたが、LINEをユーザーインタフェースに、スマホをハブとすることにより、スマート家電のみならずBluetooth接続のウェアラブルデバイスなども一括管理できるようになる予定です。LINE PayのAPIとの連携も可能なので、ワンストップのサービス構築が可能になります

金谷氏: すごいですね。次はそれを活用します(笑)

IoTはビジネスモデルを変えると言われていますが、それはお金の流れを変えるから。これまでだったらコーヒーメーカーを1台2万円で売っていた、でももうコーヒーメーカーは無料でいいですから、その代わり豆を買ってください、とか、今度はコーヒーを飲んだ回数で値段が決まるとか。それを実現するには何回コーヒーメーカーが使われたかセンシングできないといけないし、決済システムもつくらないといけない。となると結構大変じゃないですか。

でも、LINE PayとLINE Thingsを組み合わせたら、そういう世界が簡単にできるのかもしれないですよね。そう思うとすごいことですよね。

ーーなるほど。それはとても面白いですね。それでは3つ目も教えてください。

金谷氏: 今まではスマートスピーカーは家で使うことが前提になっていたと思うのですが、公共の場 で使いたいなと思います。

ーー会社説明会のイベントにスマートスピーカーを置いて、就活生の質問に答えさせたとおっしゃっていましたが、それでしょうか?

金谷氏: ええ。それをすると運営者側も来場者がどのような質問をしたかわかります。そうすると、たとえば観光案内所にClovaを置いて、観光客がいつもトイレの場所を聞いていたら動線を改善するとか。そういうマーケティングの方向にも使えそうだと思いますので、公共の場所で使ってみたいですね。

そのうち、公共の場で使うためのスマートスピーカーも販売されるのだろうとも思います。

ーーノイズをノイズとして区別できるようになると可能性はありますよね。今後の展望もすごく面白かったです。それでは最後に読者にメッセージをお願いします。

金谷氏: 開発のハードルは高くないよ、ということと、スマートスピーカーだけがVUIじゃないよという2つをみなさんにお伝えしたいです。スマートスピーカーだけだと思うと、スキルをつくっても使われないんじゃないかと思うかもしれません。でも、ウェラブルデバイスまで広げたらアイディアが湧いてきたり、マネタイズの方法も浮かんでくるかもしれません。そういうところも是非知っていただきたいです。

ーーありがとうございます。

制作:SmartHacks

MY BODY~かんたん体重記録~

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