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Google I/O 2017 参加&シリコンバレー技術系企業見学レポート

Seungwon Lee, Hyukjae Jang 2017.06.09

Seungwon Lee:LINEでAndroidアプリの開発を担当しています。Hyukjae Jang:LINEでAndroidアプリの開発とクライアント側ユーザ分析を用いた新機能開発を担当しています。

はじめに

こんにちは。LINEでAndroidアプリの開発を担当しているLee Seung Wonです。LINEの社員として最も誇りに思うことの一つは、LINEでは、開発者がカンファレンスなどに参加して技術的な刺激が受けられるよう、参加チケット代、渡航費、ホテル代など諸費用を会社側よりサポートしてもらえるということです。今回の記事では、17年5月17日から19日にかけて米マウンティンビューで行われた「Google I/O」の会場の熱気をお届けします。Google I/Oは、08年以降毎年開催されている開発者向けカンファレンスとして、モバイル業界の二大巨頭の一社であるAppleのWWDCと並んで世界中の開発者にとって一大イベントといえます。カンファレンス名の「I」と「O」は、「Input and Output」という通常の意味の外に「Innovation in the Open」という意味合いを持ちます。同カンファレンスはGoogleにとって、未来へのビジョンを提示する場です。LINEにとっても、自社と直接関係あるAndroid OS内の新しい変化から、Web技術、クラウド、VR(virtual reality、仮想現実)に至るまで、Googleのこれまでの成果と今後の計画について垣間見ることのできる場といえます。

Google I/O Keynote

モバイルワールドからAIワールドへ

今年のカンファレンスを盛り上げたテーマといえば何といっても「AI(artificial intelligence、人工知能)」。これまで社内でのみ発展させてきた各種AI技術を実際のサービスに導入するための様々な工夫について紹介されました。keynoteスピーチで発せられた同社スンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOによる「Mobile First to AI First」宣言は、AI技術基盤へのGoogleの全社的な移行を象徴的に物語っています。それを受け今年のGoogle I/Oでは、AIファーストに突き進むための諸々の基盤技術、そしてAI技術に支えられたGoogleサービスに関する発表が行われました。

Google.ai

スンダー・ピチャイCEOは、機械学習やAIに関するGoogle各チームの取り組みと研究内容を発信する窓口として、「Google.ai」を紹介。このサイトを通じてAIと人々の間に立ちはだかっているハードルを下げ、新しいツールを世に送り出すことになると思われます。

new Cloud TPUs

ピチャイ氏はさらに、AIファーストを追求するには新しいハードウェア技術が求められると述べた上で、次世代TPUソリューションを「Google クラウド」の新サービス「Cloud TPUs Cloud TPUs」から提供する方針を明らかにしました。次世代TPUソリューションとは、Googleの各種サービスに用いられた機械学習のスピードアップを目指し、16年度のGoogle I/Oで発表されたTPU(Tensor Processing Unit)をクラウド型で連携したものです。

出典:https://blog.google/topics/google-cloud/google-cloud-offer-tpus-machine-learning/

Tensorflow Lite(モバイル向けTensorflow)

「TensorFlow Lite」は、今年末に発売予定の「Android O」搭載端末上で機械学習が動けるよう、TensorFlowのオープンソースをモバイル向けに最適化したフレームワークのことです。深層学習モデルをスマートフォン端末からも動かすことができることから、インターネットにつながっていない状況でも安定的に深層学習モデルを適用できるようになっています。

「Google レンズ」越しに見える身の回りの世界

近年、ものの認識などコンピュータビジョン技術の認識率は、人工ニューラルネットワーク技術の採用でいよいよ人間のレベルを超えようとしています。Googleは、コンピュータビジョン技術およびマップ、ナレッジグラフ、画像検索技術など既存の自社サービスと新たにコンバージェンスさせる技術の一つとして新サービス「Google レンズ」を発表しました。「Google レンズ」とは、あるものと関係した有意味な情報を、カメラを利用して一種のAR(augmented reality、拡張現実)の形で示してくれるサービスといえます。発表では、たとえば街中で見かけたレストランや外国語で書かれたメニュー表に「Google レンズ」をあてると、そのレストランに関する情報を表示したり、メニュー表の外国語を即座に翻訳してくれる場面を想定した例が紹介されました。同サービスは今後、「Google フォト」、「Google アシスタント」サービスとも連携されるということです。

多言語対応の「Google アシスタント」

ピチャイ氏によると、Googleの音声認識技術は着実な発展を遂げ、深層学習によって英語の音声認識における誤り率を今年4.9%まで下げているそうです。かつて「Google ナウ」のような単純なリクエスト入力手段から始まったGoogle音声認識技術ですが、今や「Google アシスタント」を通じて真の音声認識パーソナル・アシスタントへと進化していることが分かります。「Google アシスタント」は、ユーザのパーソナル・アシスタントとして、「Google ホーム」やPixelなどのスマートフォンに搭載されています。ご周知のスケジュールやメール管理、Web情報検索、音楽プレイなど基本サービス以外にも、Chromecastや各種IoTデバイス同士の連携およびパーソナル化によるカスタマイズサービスが追加で提供されるとのことです。さらに、「Google レンズ」を利用した新しい入力インターフェースの導入など、サービスは多方面に広がっています。今般のGoogle I/Oでは「Google アシスタント」のiOS対応が発表された外、この夏から日本語、フランス語、ドイツ語、年末には韓国語とイタリア語対応を開始するという発表もありました。

「Google アシスタント」のイメージ:

出典:https://assistant.google.com/

共有できる友だちをサジェストしてくれる「Google フォト」

「Google フォト」にはSuggest Sharing、Shared Libraryなどの画像共有機能が追加されました。写真の中の人物を認識し、共有できる人を薦めてくれたり、iOSの「フォトストリーム」のように、特定ユーザが撮った写真を共有し続けることもできます。さらに、ベスト写真を選りすぐって本物のアルバムに製作してくれる「フォトアルバム」サービスも開始されるそうです。


Keynoteスピーチでは、AI基盤技術の外、Googleの様々な主力サービスのアップデートや新プロジェクト立ち上げに関する報告も続きました。

滑らかな操作、必須機能を追求した「Android O」ベータ版

出典:https://blog.google/products/android/2bn-milestone/

今回のカンファレンスでは、流れるように滑らかな操作体験と必須機能(Fluid Experiences and Vitals)の提供が強調されました。「Android O」ベータ版から確認される最も重要な変化といえば、PIP、バッテリー、通知、新言語への対応が挙げられます。

PIPモード:PIPは「Picture in Picture」の頭文字をとった言葉で、二つのアプリケーションを一つの画面上で起動する機能のことです。「マルチウィンドウ」からさらに進歩していて、よりコンテンツにフォーカスした機能といえます。この「PIPモード」を利用すると、一つの画面上に他のアプリケーションが表示されていて、その上で動画を再生することができます。

バッテリー、バックグラウンド・チェック:スマートフォンのバッテリーを消耗させる一要因として、スマートフォンリソースの使用が挙げられます。「Android O」では、ユーザへの配慮としてバッググラウンドで起動するアプリケーションへの制限を強めています。詳しくは、Dozeモードがより強化され、バッググラウンドサービスやブロードキャストの実行に制約がかけられることになります。

通知チャンネル、通知バッジ:通知チャンネルは、開発者が通知をカテゴリ別にカスタマイズして管理するための機能のことです。さらに、一件以上の通知が発生しているときはランチャーから確認できる通知バッジが追加されます。

Kotlin対応:Android開発者から最も大きな歓声が上がったのは、ジェットブレインズ社開発のKotlin対応が発表されたことでした。KotlinはJVMで動く言語であり、Javaとは違って文法がシンプルな上、NPE(null pointer exception)処理などruntime exception処理が簡単にできます。Kotlinを支持する開発者のコーディング作業に弾みがつきそうです。

新OS「Android Go」、独立型VRヘッドセット

Android Go: 「Android Go」は「Android O」の軽量版で、データ通信量やバッテリー消耗を押さえられるように設計された新しいOSのことです。RAM容量1GB以下の低スペックスマートフォンに搭載される予定で、「Android Go」に最適化された「Youtube Go」では、オフライン再生機能が無料で利用できるようになります。

独立型VRヘッドセット:「Daydream」はGoogleが以前発表したVRプラットフォームで、それを利用するにはVRヘッドセットとDaydream対応のAndroid搭載端末が必要でした。今までは対応スマートフォンといっても残念ながら限られていたのですが、Googleは今回、独立型VRヘッドセット(スマートフォン・PC不要)という新型ヘッドセットの年内発売を公表しました。このヘッドセットは、外部センサーとのやり取りなしで着用者の位置をトラッキングする新技術「WorldSense」が採用されるということです。現在、この新型ヘッドセットの標準策定に向けクアルコム社と緊密に連携していて、実際の商品はHTC VIVEとレノボから今年末を目処に発売される計画だそうです。

出典:https://blog.google/products/google-vr/latest-vr-and-ar-google-io/

Google I/Oイベント全般について

続いて、今年のGoogle I/Oイベント全般に関する感想や印象深かったところについてお伝えします。

去年とはとにかく違う!

まず、今年のGoogle I/Oイベント全般に関する感想からです。同イベントは去年から屋外開催となっていますが、それによる様々な問題に真剣に取り組み、今年はそれなりの対策がとられている印象でした。屋外の行列で長時間待たされている間にサンフランシスコの強烈な日差しにさらされやけどを訴える人が多かった去年への反省から、今年は参加者全員にサングラスや日焼け止めクリーム、水筒の入ったサバイバルキットが配られました。また、長時間並ばなくても済むよう各セッションには予約システムもできていました。人がお水を飲みに来るのを待つのではなく、人々が群がっているところを自転車で直接訪れる移動式給水サービスや、飲み放題の冷たい飲み物、スナック菓子の提供も印象的な部分です。イベントをさらに盛り上げ、遠くまで足を運んでくれた参加者たちの疲れを癒すために様々な抽選会も行われました。なお、一日の寒暖の差が激しいサンフランシスコで寒さに耐えられるよう、夜のセッションでは毛布が用意されるなど、参加者への配慮は隅々まで行き届いていました。

技術デモンストレーション

講演中に紹介されたGoogleサービスについて、Sandboxというドーム状の建物で演者と直接会って触れてみたり、様々な体験ブースで自ら各種技術をデモンストレーションしてみることもできました。

Google アシスタント SDKを利用したBeverage Mixer

NFCを利用して決済につながる「Android Pay」を体験してみたり、「Daydream」を利用したVR体験、新しく改修されたAPIについてCodeLabsで直接コーディング体験できる機会もありました。

サンフランシスコ所在の技術系企業を訪ねて

Google I/O参加の件でサンフランシスコを訪れたついでに、次は有名技術系企業のAirbnbとGoogleのオフィスまで足を延ばすこととなりました。現在それらの企業にお勤めの方から各社の業務環境や文化、当面のビジネス目標についてお話を伺いながら、バリバリIT企業の必須要素ともいわれている豪華な社員食堂も体験してみることができました。

Googleキャンパス探訪:自由な空気の中で仕事はガッチリ

Googleは、人々をワクワクさせる新技術を世に共有してきた企業です。これまで10年以上に渡って新しい技術で業界をリードしてきただけに、役職員の人数もさることながら勤務先の面積も圧倒的なスケールを誇ります。会社敷地は「キャンパス」と呼ばれ、プラットフォーム、アプリケーション、クラウドなどサービスごとに分かれていて、建物と建物を行き来するときはGoogle自転車というユニークな交通手段が提供されます。

今回の訪問先は、クラウドやサーバー関連業務を集めて最近新しく造成された区域です。訪問当時も工事真っ最中で、この先ますます大きくなっていくことが容易に想像できました。お邪魔したのはランチ時間。社員食堂では多くのGooglerたちが食事をしていました。さすがウワサのGoogleの社食だけあって、メニューも普通の洋食ばかりでなく和食、スペイン料理などバラエティに富んでいて、社食に普通ありそうにない回転寿司コーナーも設けられていました。

このように自由な雰囲気の中でも、一人ひとりは相当なレベルのタスクをこなしているようです。自分のプロジェクトを立ち上げて自主的に取り組み、それで以って評価される、いわば自主責任システムが採用されていることはすでにご存知の通り。ところが、それだけではないのです。Googleでは、全社員に対して自分のコンピテンシーレベルが公開され、そのレベルが一種の職階のようなものとして社内で通用しています。そのレベルも、上司や仲間からの評価ではなく、自ら人に評価を求め自分を推薦してもらうと、本人とはまったく無関係な第三者コミュニティで審査が行われ結果が決まるという話には大変驚きました。

Airbnb本社探訪:Air-bedとbreakfastに象徴される自由な文化

今や宿探しの際に何となく利用している宿泊共有プラットフォーム「Airbnb」ですが、その社内雰囲気はどういうものか、知りたくなりました。

社名から楽なベッドを意味する「Airbed」と毎朝欠かさない「Breakfast」から来ていることもあって、Airbnbのあちこちにはくつろぎの空間が用意されていて、社内にはいたって自由な空気が漂っていました。1階の豪華な社員食堂だけでなく、全階にある休憩スペースでは様々な種類のお飲み物やフルーツなど社員のための簡単な食べ物が用意されていました。

また、いたるところに仕事ができる独立したスペースが設けられていて、実際多くの社員が自分の席を離れ休憩スペースで自由に仕事に取り組んでいました。Airbnbで宿泊を予約するとき、現地ならではの雰囲気を感じることがありますが、Airbnb社内でも世界中の旅先の風情を再現した、ユニークでエキゾティックなコンセプトの業務スペースをあちこちで目にすることができます。

さらに、飼い犬を連れて出社できるという大変ユニークな配慮もあります。他のことに気を取られることなく仕事できるよう環境づくりに取り組みながら、その分個人の自由もしっかり尊重しているところが印象的に見えました。

わずか数年前までは従業員はそう多くなかったようですが、新サービスのローンチなどサービス拡大に対応するため、最近は会社規模を毎年ほぼ倍増させているそうです。まさに「Rocket」そのものです。実際の仕事は企画スタッフ、デザイナー、開発者と共にグループとなって推進しますが、社風が自由な分だけ自分の仕事にはしっかり責任をもって臨まないといけないというお話もありました。

おわりに

新サービスへのワクワク感は開発者に大きなインスピレーションを与えてくれます。keynoteスピーチで確認されたようにGoogleの色々な主力サービスはある程度安定化しているため、会社として今度はAIに本腰を入れていることが察せられました。そのAIについて、技術としての研究にとどまらずユーザに直接利用してもらうべく実際のサービスに落とし込んでいるところには感心したものです。同じくLINEの各チームメンバーたちも、ユーザに驚きのサービスを提供しようと、様々な分野で新技術の研究を続けております。今後このような業界の取り組みが、開発者の方々の新しい模索を後押しする一つのきっかけになることをお祈りします。

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Seungwon Lee, Hyukjae Jang 2017.06.09

Seungwon Lee:LINEでAndroidアプリの開発を担当しています。Hyukjae Jang:LINEでAndroidアプリの開発とクライアント側ユーザ分析を用いた新機能開発を担当しています。

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